「利上げならゴールドは下がる。利下げなら上がる」
多くの入門書に、そう書いてあります。そして多くの人が、それを覚えたまま相場に入り、実際の値動きに裏切られます。
この理解は、間違ってはいません。ただし、あまりにも粗すぎて、実戦では使えない。
私は11年間ゴールドを見てきましたが、FOMCの前後で「教科書どおり」に動いたことより、「教科書と逆」あるいは「教科書が無関係」に動いたことのほうが、記憶に残っています。
この記事では、なぜそうなるのかを、2つの鍵から説明します。
前提:なぜ金利がゴールドに効くのか
まず、大元の理屈を確認します。
ゴールドは、持っていても金利を生みません。配当も出ません。ただそこにあるだけです。
一方、ドルを銀行に置いておけば、あるいは米国債を買えば、金利がつきます。
ということは、金利が上がれば上がるほど、「金利を生まない資産を持っていることの損」が大きくなる。これを機会費用と言います。
金利が高い世界では、ゴールドを持つコストが上がる。だから売られやすい。金利が低い世界では、そのコストが下がる。だから買われやすい。
ここまでは、教科書どおりです。
ただ、ここから2段階の修正が必要になります。
鍵1:効いているのは「実質金利」であって、名目金利ではない
これが最初の、そして最大の修正点です。
金利が5%だとします。高いでしょうか。
物価上昇率が2%なら、実質的には3%の得です。高い金利です。 物価上昇率が7%なら、実質的には2%の損です。金利は5%あるのに、資産は目減りしています。
この「名目金利 − 期待インフレ率」を、実質金利と呼びます。
そして、ゴールドが本当に見ているのは、こちらです。
ゴールドの本質的な役割は、通貨の価値が目減りすることへの保険です。だから、インフレを差し引いたあとの金利、つまり実質金利が低い(あるいはマイナスの)とき、ゴールドは輝きます。名目金利がいくら高くても、それ以上にインフレが激しければ、ゴールドを持つ理由は消えません。
ここが核心です。
「利上げ=ゴールド下落」が成立しないのは、利上げが同時にインフレ期待を抑え込むこともあれば、抑え込みきれないこともあるからです。同じ利上げでも、実質金利が上がる利上げと、上がらない利上げがある。ゴールドが見ているのは、政策金利の数字そのものではありません。
DXYとの関係については、こちらの記事で扱っています。あわせて読むと立体的になります。 → ドルインデックスとゴールドの関係
鍵2:相場は「決定」ではなく「予想との差」で動く
2つ目の修正点は、もっと実務的です。
FOMCで0.25%の利上げが決定された。ゴールドはどう動くか。
答えは「それだけでは分からない」です。
なぜなら、市場は決定の前から、その決定を織り込んでいるからです。市場参加者の9割が0.25%の利上げを予想していたなら、その利上げは、決まる前からすでに価格に入っています。決定されても、新しい情報は何もない。だから動かない、あるいは逆に動く。
相場が動くのは、予想と現実がズレたときだけです。
ということは、FOMCで実際に見るべきものは、金利の数字ではありません。
- 声明文の表現の変化(前回からどの単語が消え、どの単語が入ったか)
- ドットプロット(FOMCメンバーが将来の金利をどう見ているか)
- 議長の記者会見(決定そのものより、ここで動くことが本当に多い)
私の実感では、ゴールドがもっとも荒れるのは金利発表の瞬間ではなく、その30分後、会見が始まってからです。数字は織り込まれていても、言葉のニュアンスは織り込めないからです。
「利下げ局面だから買い」という考え方の危うさ
ここで、よくある落とし穴を潰しておきます。
「これから利下げ局面に入る。だからゴールドは中長期的に上昇する。だから買い持ちで放置する」
この発想は、危険です。理由は2つあります。
ひとつは、利下げ「観測」の段階で、すでに買われているからです。実際に利下げが始まったときには、材料としてはもう古い。「利下げ開始でゴールドが下がる」という、直感に反する動きが起きるのはこのためです。事実(fact)が出た瞬間に、期待(expectation)で買っていた人が利益確定する。
もうひとつは、方向が合っていても、途中で退場する可能性があるからです。1年後に価格が上がっているとしても、その途中に何度も深い押しがあります。方向を当てることと、生き残ることは別の問題です。
方向感を持つことは悪いことではありません。ただし、それは資金管理の代わりにはなりません。 → 資金管理が一番難しい
FOMC当日、私がどうしているか
自己開示として書きます。
私は、FOMCの発表を跨いでポジションを持つことは、基本的にしません。
理由は簡単で、跨いだ結果がどうなるかを、私は予測できないからです。11年やってもできません。できないことをやるのは、分析ではなくギャンブルです。
では何をしているか。
待っています。
発表直後の激しい上下は、多くの場合、方向感がありません。上に飛んで、下に飛んで、また上に戻る。ここで勝てる人もいるでしょうが、私はその中に自分がいるとは思っていません。
私が見るのは、その荒れが落ち着いたあとです。荒れたあとにどの水準を守ったのか。どこを抜けきれなかったのか。混乱が引いたあとに残った形にこそ、市場の答えが出ている。
これは臆病な態度に見えるかもしれません。でも、11年生き残るというのは、こういうことの積み重ねです。
「入らない」という判断は、判断です。
覚えるのではなく、構造を持つ
最後に。
この記事に書いたことを、暗記しないでください。
「実質金利が下がればゴールドは上がる」を暗記しても、次のFOMCで実質金利がどう動くかは分かりません。暗記は、次の局面で使えないからです。
持ってほしいのは、問いの立て方のほうです。
- 今、市場は何を織り込んでいるのか
- 今回の材料は、その織り込みを変えるものだったか
- 実質金利は上がる方向か、下がる方向か
- そして、チャートはそれを裏付けているか
この4つを、自分の言葉で答えられるかどうか。答えられないなら、その相場には入らない。それだけのことです。
パターンを覚えることと、相場を読めることは、まったく別のものです。この差を埋めるのに、私は何年もかかりました。
関連記事: → 雇用統計でゴールドはどう動くか → GOLD完全ガイド
ここから先の話
FOMCや指標に対する考え方の骨格は、ここまでで伝えたつもりです。
ただ、実際の相場で難しいのは「今、市場が何を織り込んでいるのか」を、リアルタイムで肌で感じることです。これは文章では、どうしても届きません。
BENTube Membershipでは、毎週日曜21時の配信で、その週の材料とゴールドの位置を一緒に確認しています。月3回のZoomライブトレードでは、実際に私がどこを見て、どこで入らないと決めているかを、そのまま見てもらっています。
答えを配るつもりはありません。目指しているのは、あなたが自分で判断できるようになることです。依存させないことが、私の唯一の方針です。
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免責事項 本記事は教育・情報提供を目的としたものであり、特定の売買を推奨するものではありません。トレードには元本を失うリスクがあります。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
